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山田洋次監督の初時代劇『たそがれ清兵衛』は時代が違っても公務員日常だからこそ共感できる

たそがれ清兵衛[THE TWILIGHT SAMURAI]パッケージ

森田芳光監督『(ハル)』以上に、シナリオを先に読んで大正解

事前に、シナリオ雑誌『月刊シナリオ 2003年1月号』(2002年12月03日発売、シナリオ作家協会)掲載の脚本を読んで結末まで知っていたけど、ホント映画館で見てよかったと心から感じた、ひさひざの傑作邦画……。

月刊シナリオ
http://www.scenario-drama.jp/sce/top.html

先にシナリオを読んで、過去映画館で感動したことは半々以下で、最も感激したのは、森田芳光監督・脚本、深津絵里・内野聖陽・戸田菜穂主演の『(ハル)』。

それを越えるぐらい、映画館で見て〝映画〟はやっぱいいなぁと感じた。

つまりは、脚本を越える演出や演技のスゴさなどを実感した1本というわけです。

まだ上映中なので、ぜひ映画館でその〝違い〟を感じていただきたい……。

期待しすぎた『たそがれ清兵衛』と既存の時代劇イメージとの違いに驚き

2003年春の第26回日本アカデミー賞を受賞すると、日本映画賞総ナメとなる『たそがれ清兵衛』を遅ればせながら見てきました。

正直ものすごい期待して見に行ったけど、それでも映画館で見れて良かったとしみじみ。

もちろん事前に脚本を読んでいたこともあるけど……。

これテレビで見ると、たぶん退屈でホント寝ちゃうかもしれないんです。

まだ見ていないので較べようもないんですが『阿弥陀堂だより』と比較して、どっちがより退屈なんでしょうか(ネットレビュー参照のイメージ)。

とりあえず、これら映画の多くの感想にあるようにどちらも淡々とした〝時間〟が過ぎていくだけ。

なにしろ、時代劇といっても、というか、時代劇だからこそ誰もが〝テレビ時代劇〟に期待するようなドラマチックな展開はなにもありません。

ラストに印籠は出てこないし、浜辺で馬にも乗らないし、桃太郎的な口上もありません……。

藤沢周平の原作を知っている方はともかく、
山田洋次監督初の時代劇とはいえ、これまでイメージしていた〝時代劇〟がどこにもないのです。

江戸時代の公務員の日常生活が劇的なラストへと

まず描かれるのは、ただの公務員の日常。

現代と違うのが時代背景だけで、幕末の海坂藩(山形県の庄内)を舞台に、下級藩士(真田広之)の日々を〝淡々〟と描くだけ。

しかし、それがあまりにリアルで、これまでの〝テレビ時代劇〟とは確実に違う〝江戸時代末期〟にいっきに引き込まれてしまうのです。

タイムスリップというか、ウソばかり(これがいいんですけどね)の従来の〝時代劇〟とは違う空気を誰もが感じる展開だと思います。

その空気とは〝日本人〟ならでは生活かもしれません。

例えば、日本人が本来持っている〝わびさび〟というと安っぽいけど、遺伝子というか……これも安っぽい表現ですが、日本の四季の美しさ、反面として雪などの季節の厳しさ、日本語のなんとも言えない心地よさ、最近でいうと〝癒しブーム〟にも近い感覚に満ちあふれているというか、胎児のときに聞いた母親の鼓動というか、そんなものを不思議と感じました。

そういう意味では、ある程度の人生を重ねて、さらに感動できる物語なのかもしれない。

5年後、10年後に見るのが楽しみだ。

自分が主人公として生きる世界の厳しさ

映画館の雰囲気では、年輩の方々はほぼ泣いていて、若いカップルはのほほんといてました。

自分は涙ぐんだだけでしたが、これからずっと人生を歩むなか、のちのちボロ泣きだったかもしれないです(結婚していたら、まちがいなく夫婦愛にボロ泣き)。

なにげない生活にも、誰にも分からないその人だけの人生があって、表面的には同じに見えたとしても、やはり違うわけで。

それも当たり前のことだけど……。

誰もが、自分の人生の主人公だ……というのも安っぽい表現ですが、あの時代に生きた人々の生活がここにあります。

それが染み入るというか、もう時代劇ではないですね。

もう〝いま〟を生きる自分たちの生活がこの映画にもあります。

そのなか、自分は幕末の状況とかそれなりに勉強したし、当時の生活もそれなりに知っているとして、余計に物語の背景がわかっていたつもりだったけど。

幕末知識ゼロでも、泣けるはず。

なにしろ描かれているのは、時代を超えた〝リアルな生活〟であり、その延長上にあるトラブル。

当時と人生観や恋愛観、結婚観はまったく違うのは承知してますが。

ラストも強引な単身赴任と営業ノルマといえなくもない。

退屈な展開 = たそがれ生活。

この映画を公務員やサラリーマンに例えているレビューが多いのも納得。

これがリアルな自分なのかもしんない。

シナリオ雑誌『月刊シナリオ 2003年1月号』(2002年12月03日発売、シナリオ作家協会)で、その背景や細かい意図を発見できると思うので、オススメ。

スペック

■ 映画タイトル:たそがれ清兵衛[THE TWILIGHT SAMURAI]
■ 製作:日本
■ 原作:藤沢周平
■ プロデューサー:中川滋弘、深澤宏、山本一郎
■ 監督・脚本:山田洋次
■ 脚本:朝間義隆『幸福の黄色いハンカチ』『俺たちの交響楽』
■ 撮影:長沼六男『半落ち』『沈まぬ太陽』『武士の一分』『青春かけおち篇』
■ 編集:石井巌『東京家族』『家族はつらいよ』『母と暮せば』
■ 照明:中岡源権『竜馬を斬った男』『226』
■ 出演:真田広之、宮沢りえ、小林稔侍、大杉漣、吹越満/他
■ 配給・公開日:松竹・2002/11/02

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